先週衆議院を通過した安保法案は政権の支持率を大いに下げ、新国立競技場の白紙化でも起死回生とはなりませんでした。9月に可決する頃には支持率はもっと下がっているかもしれません。
安保法案について関心のある国民の意見はおおむね三種類に別れるかと。
- 賛成。集団的自衛権も合憲だ
- 反対。そもそも軍事行動にアレルギーがある
- 反対。内容は賛成だが憲法改正が先
ちなみに私は3番目です。集団的自衛権が違憲か合憲かはひとまず置くとして、この法案はダメでしょう。「自衛隊員に軍人の身分を与えないまま紛争地域に送り出すかも」って話だから。
後方支援に徹しても交戦の可能性はあります。いや、むしろ兵站が狙われるかもしれません。そうして仮に自衛隊員が捕えられても、この安保法案下では彼らは軍人として扱われません。友国軍は自衛隊を同格と見なしてくれても敵対国は矛盾を突いてきます。「軍人なら国の命令で動いたのだから捕虜として丁重に扱う。だが軍人でなければ自主的に戦争行為に加担したゲリラだ」と。仮に日本が対外的には「自衛隊は軍隊だ」と言い張っても軍法が存在しないのだから通じません。結果、相手国が自衛隊員を犯罪者として裁くのを指をくわえて見ているしかないということが起こり得ます。しかも自衛隊を軍として認めるかどうかの踏み絵を突きつけて日本に揺さぶりをかけられます。
今回の安保法制の10法案の中には「武力攻撃事態における捕虜等の取扱いに関する法律」が含まれているけど、それはこちら側が捕虜を捕らえたときの話。逆の場合に捕まった自衛隊を軍人として扱ってもらえるものではありません。
安倍政権としてはこれが終着ではなく、いずれ憲法を改正するための橋頭堡にしたいのかもしれませんが、その時を待たずこの法律下で集団的自衛権を行使せざるをえない事態が起こらないことを願うばかりです。
なお、私は日本が守るべきなのは憲法9条の精神であって9条そのものではないと考えます。従って正式に軍隊を持ち、そのかわりに軍事能力は極めて抑制的に行使するように縛りを掛けるのが正しいあり方だろうと。よって安保法案ではなく憲法改正が必要という立場です。
「軍を持たなければ攻め込まれない」という理論は残念ながら「自分が安全運転していれば事故に巻き込まれない」と同じ理屈だと思います。
参考:
社民党の吉田議員が「もし後方支援中に自衛隊員が捕まったら戦時国際法下でちゃんと捕虜として扱われるのか?」と訊いたのに対し、麻生国務相は「そもそも危ないことはしないからそのような状況になることもない」と明言を避けています。YESとは答えられない、つまり戦時国際法で自衛隊員は軍人と見做されないと言ったも同然です。