ONE PIECEを半自炊

前回、電子書籍版のコンテンツは買わない方がいいと書きました。将来、読み返そうにも業者がサービスを停止していたら読めなくなるので。

とは言え現時点で既に67巻もあるONE PIECE。紙の単行本を買い揃えると本棚を目一杯占有するので、できれば1枚のiPadの中に収めてしまいたいところです。

ならば、現時点で最も有効な手段は自炊。紙の本をスキャンしPDF化しておけば未来永劫閲覧環境に困ることもないでしょう。

ただし、それには裁断機とドキュメントスキャナが必要です。それぞれ定番の新品を買えば計5〜7万円ぐらい。そこそこ大きな出費額になります。単行本も新品で大人買いすれば10万円コースです。

というわけで、もっとリーズナブルな方法を考えました。手順は以下の通り。

  1. 電子書籍版のコンテンツを購入
  2. コンテンツをiPadの対応アプリで表示
  3. ページをめくりながら全ページのスクリーンショットを撮影
  4. 画像一式をパソコンに転送
  5. Photoshopで余白をトリミング
  6. AcrobatでPDFにまとめる

名付けて「半自炊」。通常の自炊は食材の下ごしらえ(本の裁断)から始めるところを、既に下処理(スキャン)された具材を調理する感じなので。こうしてPDF化しておけば、以後はユーザー認証も要りません。好きなPDFビューワーで読めます。

1巻あたり約200ページのスクリーンショットを撮るのはけっこう面倒ですが、自炊の場合でも裁断角度や読み込み角度がずれたり、複数枚原稿の紙送り(スキャン漏れ)、ドキュメントスキャナ内で原稿がジャムるなどの不具合が多々起こり得るので、一概に大変な作業とも言いきれません。

また、見開き状態でスクリーンショットを撮れば手間は半分ですみます。RetinaディスプレイのiPadなら見開きでも十分な解像度が得られます。トリミング作業もPhotoshopのアクション機能でバッチ処理させれば数分待つだけで余計な手間もありません。1巻30分もあればPDF化できそう。だったら暇をみて半自炊しておく価値はあるでしょう。

注意事項としてはあらかじめiPadのフォトストリームをオフにしておくこと。じゃないとスクリーンショットを撮っている最中にiCloudに転送が発生してiPadの動作が緩慢になってしまうので。

もちろん作成したPDFを外部に流通させるのは御法度。摘発されれば個人では払えないほどの額の損害賠償請求を喰らい兼ねません。

ちなみに、現状ONE PIECEの電子書籍版はYahoo!ブックストアとBookLive(& GALAPAGOS STORE)が取り扱っています。前者は単色で66巻まで刊行済みで378円/巻。後者は着色されたものが12巻まで刊行済みで473円(100ポイントバック)/巻。

どちらを選ぶかは好き好きですが、私ならYahoo!ブックストアですね。着色されているBookLiveの方が見栄えは良いものの、その分電子書籍化に余計な工数がかかっています。後発なので差別化のためにそうしたのでしょうが、現状12巻までしか刊行できていないし、いつまでに何巻まで出揃うかも不明です。

GALAPAGOSにいたっては母体のSHARPの先行きが怪しくなっています。外部からの資本注入がなされたら、この事業は続けられなくなる可能性も大いにありましょう。

おまけにBookLiveのiPad版アプリは少なくとも私のiPadではろくに起動しません。10回中9回は最初のページめくりのタイミングで落ちます。稀に成功するのが不思議ですが…。

その点、Yahoo!ブックストアのアプリの方は安定して動作します。ユーザー認証を頻繁に求めてくる煩わしさと誤操作が起こりやすいUIの出来の悪さが難点ですが、いったんPDF化してしまえば解決します。

電子書籍の時代はまだ来ない

ONE PIECEの電子書籍版を買っていいものか迷っています。いや、自分の中での結論は出ているのですよね。「買ってはいけない」と。

理由は永続性が保障されないから。一度買った作品は半永久的に読めるようであってほしいものですが、現状ではオンライン書店の業者がサービスを停止したらユーザー認証が通らなくなり、本としての寿命が尽きてしまいます。

もし、閲覧の際にユーザー認証を経ない仕様になったとしても、iPadのOSのバージョンが上がって専用のビューワーアプリが起動しなくなれば(Appleは古いAPIを容赦なく切り捨てるので、往々にして起こり得る話)、そのコンテンツは単にメモリ容量を圧迫するだけのゴミデータと化します。

ONE PIECEの電子書籍で言うなら、Yahoo!ブックストアなりBookLiveGALAPAGOS STOREが向こう何十年もサービスを続けてくれればいいのですが、その保障はありせん。もちろん天下のYahooだし、BookLiveやGALAPAGOSにも錚々たる企業が出資、協賛しているものの、あてにはできないでしょう。特にBookLiveやGALAPAGOSは先行き怪しいと思うのですが、その話は別の機会に。

言い換えると電子書籍版は、電子書籍としての作品そのものではなく、業者がサービスを継続している期間中にその作品を読む権利を買うということ。この二つは持ち家と賃貸住宅ほどの違いがあります。

有償コンテンツであってもDRMの掛かっていないePubなりPDFで提供されればいいのですが、多くの有力コンテンツホルダーはDRMがないデータの流通を嫌うのですよね。その考えも解ります。紙の本ならコピーしても品質劣化した紙切れにしかなりませんが、デジタルデータは原本と同じ品質の副製品が作れるので。ePubを所管するIDPFはEPUB Lightweight Content Protectionという軽いDRMを提唱していますが、果たして日本のコンテンツホルダー側が飲めるかどうか…。

これまで「コンテンツが揃わないから電子書籍が普及しない」と「電子書籍が浸透しない内はコンテンツが揃わない」が鶏と卵の関係のように言われていましたが、私が考えるに、一番大きな課題は「固いDRMがなければ提供できないコンテンツホルダー」と「普遍性がないコンテンツはおいそれとは買えない消費者」の利益相反をどうやって解消するか。有効な策がないままコンテンツの数が増えても状況は大して進展しないでしょう。音楽のように有力な書籍コンテンツがDRMなしで販売されるようになれば、電子書籍市場も爆発的に拡大しそうなのですが…。

そしてこの先起こりそうなのは、「ある日突然業者がサービスを停止し、せっかく買った電子書籍が無駄になった」という事態に大勢のユーザーが直面すること。この2〜3年の間に電子書籍に乗り出したものの思うように売り上げが上がらずにギブアップを余儀なくされるオンライン書店が続出することは大いに考えられます。その際、顧客の購入履歴を別の業者に委譲し、閲覧環境の互換性も確保されればいいのですが、そうなるかは解りません。

まあでも、それが有望な解決策かなとも思います。つまり、買収に次ぐ買収で資産を漏らさず継承しながらオンライン書店が大手の2〜3社に集約されれば、DRMが掛かっている電子書籍コンテンツも安心して買えるようになるだろうと。委譲、移行がスムーズに行われれば、ピンチを絶好のチャンスに変えることもできましょう。

ユーザーにとっては選択肢が限らて寂しくなるものの、言わば都市の再開発みたいなものかと。駅前の特色のない個人商店が役割を終える一方で、郊外の大型ショッピングモールが需要の大半を吸収するような流れと同じですね。

とは言え、中小の業者もあらゆる手段を用いて必至に生き残りを図るので、諸外国はともかく日本では本格的な電子書籍の時代の到来はまだまだ先だと私は見ています。何年かの後、皮肉にも果敢にチャレンジした業者の大半が倒れ、礎となった暁に、ようやく花開くのではないかと。