ePubってダメなんじゃね?

先日、JEPA主催のePub関連のセミナーに参加しました。

率直な感想は「カオス」でしょうか。何とも混とんとしている印象です。こう言っては何だけど、「ePubで何を実現するのか?」や「●●を達成するための手段がePubなんだ」ではなく「とりあえずePubを作れる製品を開発してみました。何に使うかはお任せします」的な取り組みが多いのですよね。

そんな中、良かったのは下記の2セッション。

『津田大介の「メディアの現場」』の現場 ネオローグ 香月啓佑

ジャーナリスト津田大介さんのメルマガがePub化されたことによって購読部数が伸びたという事例紹介。

ただし、ePub化すれば書籍としての完成度が上がり、売り上げ増に結びつくなんて考えたら大間違い。読ませる力、買わせる力を持ったコンテンツであればプレインテキストよりもePubの方が求心力を得られるというお話です。

セッションでも「こんなメルマガはすぐに廃刊になる」というあるあるネタに多くの時間が費やされていました。

EPUBでアクセシビリティーを考える – 音声読み上げ機能をSMILで実装する  想隆社  山本幸太郎

ePubに音声合成による読み上げ機能を持たせてしまおうという試み。なるほどこれは面白いです。

これまでも音声読み上げを伴う電子書籍にはDAISYという規格があって、先行する米国だけでなく国内でもそれなりに普及しつつあるのですが、より一般的なePubを読み上げられるなら、それを置き換える可能性があります。

そもそもePubとDAISYは近い将来統合される予定なので、そういう未来を先取りしている感じです。iPadのiBooksでePubを読み上げてくれるなら専用プレイヤーが必要なDAISYなんか要らないじゃないかと。

それに視覚障害者向けだけでなく、文章校正にも有益だとの話。確かに活字テキストの黙読、素読みでは日本語の微妙な間違いを見過ごしがちになりますが、そんな箇所も耳で聞けば違和感を覚え、即座に発見できます。さすがに同音異義語、漢字の変換ミスの検出には無力ですが、目視確認と併用すれば確実に校正精度が向上します。

デモはまだ試作段階のようでしたが、完成度が上がれば大化けしそうなアイディアです。

で、ePubへの総評ですが、これが何とも微妙ですね。少なくとも日本では。

2年前に最初のiPadが発売され、iBooksがePubをサポートしていたことで「これで出版社や取次、街の本屋さんもすっ飛ばして個人が本を出せる時代になる」と言われていたものの結果はこの通り。

いや、それ自体は間違っていないのですが、結局のところ人々は素人の書いた粗削りな文芸作品なんぞを読みたくはないわけです。

一方で有力作家や有名人には出版社、編集者の手を借りて紙の本を出したりアプリにして売る方法があります。いくらタブレット機器が売れているからと言ってePubで書籍を出すことには必然性が乏しいのですよね。

まあ、津田さんのような有名なジャーナリストや大手出版社がこぞって採用し、一方で紙の本への注力度合いを減らせば日本でも標準規格としては成功するでしょう。でも、かつてのホームページ作成ブーム→blog→Twitter→SNSといった流れの、誰でも発信者側になれる全員参加型による突破力はePubにはありませんね。

まれに編集者の手を借りる必要がないほどポテンシャルの高い素人の作品が注目を集め、売れることはあるかもしれませんが、それに続こうとする凡庸な連中は死屍累々となり、やはりブームにはならないでしょうね。

電子書籍三年目

初代iPadが発売されたのが2年前の4月。そこを電子書籍元年とするなら今年は電子書籍三年目に当たります。私も仕事の一環で断続的に研究していましたが、ふと立ち止まって現状を見回してみると、思っていたほど何かが変わった感はないような…。

いや、中には相当数売れている電子書籍もありますよね。「もしドラ」やスティーブ・ジョブズの伝記など。でもそれって紙の本としてもベストセラーで、電子書籍だから売れたのではないわけです。

思い起こせば2年前、iPadが発売され、iBooksがePubをサポートしていたことで、いよいよセルフパブリッシング時代の幕開けかと言われていました。標準規格のePubにすれば誰でも売り物と同じような書籍が作れ、出版社やら取次、印刷や製本の工程もすっ飛ばして本が出せると。

でも現実はそうはなりませんでした。考えてみれば当然です。人々は無名作家の作品なんか買って読みたくはないわけで。例えば小説なら、せめてどこかの新人賞はクリアしたぐらいでないと食指は伸びません。いや、無料公開でもそもそも辿り着かないでしょう。かつてのホームページやBlogのようにはすそ野は広がらないわけだ。

一方で著名人、有力作家は出版不況下にあっても出版社と編集者のサポートを受けながら紙の本を出版できます。有力作家の作品が揃わないのが日本で電子書籍が足踏みしている最大の理由ですが、歩合制の電子書籍と違って紙の本が出来たら作家には印税収入が入るわけで、特に新しいこと好きでもなければ電子書籍化を急ぐ理由はないでしょう。

うん、少なくとも日本では電子書籍が花開くのはまだまだ先のような気がします。年内には黒船Amazonが参入してくるようですが、どうでしょうかね。

ああ、でもiPadの普及で自炊データが実用的になったのは大きな進歩かも。

iBooks Auther

AppleがiBooksの新しいバージョンと、iBooks向けのコンテンツを作るためのMacアプリ「iBooks Author」をリリースしました。それからiTunes UのiOSアプリも。すべて無料です。

私が密かに期待していたMac版(およびWindows版)のiBooks(iOSとパソコンで同じようにコンテンツを表示できる定番ビューワが欲しいので)は出ませんでした。

なお、教科書向けと言いつつ音声自動読み上げには対応できていないようです。この先、アメリカでは視覚障がい者の支援団体が圧力を掛けに動かざるをえないかも。

新iBooksの特徴はマルチメディアを含む電子書籍が見られるようになったこと。これまでもそのような電子書籍がそれぞれ単体アプリとしてリリースされていたので目新しさはないものの、それらをiBooksのライブラリ内に集約できるようになった点は進歩です。必然的にタッチ操作の作法も統一されて行くでしょう。

iBooks Authorアイコンさて、個人的に最も関心があるのはiBooks Author。以前からあったワープロソフトのPagesを電子書籍作成向けに発展させた感じのものです。なるほど、もくじや用語集、練習問題など教科書っぽい要素を盛り込めるようです。

そして気になるのは「Publish」の機能。作成した教科書はiBookstoreに公開できるらしいこと。その際「iBookstore 販売者アカウント」が必要となり、それなりにハードルは高そうですが、基本的にはiOSアプリのように、個人でも教科書を作ってiBooksで配布・販売ができるのでしょう。

また、ライセンス規定には「用途はいかにも教科書然とした教科書に限る」という条項はなさそうなので、これを機に電子書籍の個人出版がブームになるかもしれません。

例えば東京都の府中市に遊びに行って、道中に撮影してきた写真と動画をページに並べて短い文章を書き添えたら「2012年府中の旅」などと名付けて85円ぐらいで売てみるとか。ダジャレだけど…。

まあ、ここではパラオのダイビングツアーにしましょうか。コロールの港からロックアイランドを抜けて沖合いに向かう間にクルーザーの前をイルカが泳いだりジャーマンチャネルで頭上をマンタが旋回する様子、あるいはブルーコーナーのグレーリーフシャークの捕食シーンなどの動画やブルーホールの縦穴に光が差し込んだ写真などを組み合わせて、旅行記本に仕立て上げるとか。

パラオの写真
私のパラオの写真ストックから抜粋

難点はiBookstore専用コンテンツになってしまうこと。まあでも現段階ではAppleも作家とコンテンツを囲い込みたいでしょうから、致し方ないでしょうね。

差し当たり、私のダイビングと飲みの仲間で某大手旅行社OBの方がいます。一昨年会社を辞め、過去にツアーコンダクターとして足を運んだ世界各地の写真に文章を添えて旅行記本の出版計画を出版社との間で進めていたものの、昨春の大震災でもって話が流れてしたそうな。以来、再計画の目処も立っていないようです。彼なんかが個人出版に挑戦するにはいい仕組みかもしれません。

マンタ漁

最近ではiPadで海外の雑誌が簡単に買えるようになったので、私もときどき外国の雑誌を眺めていたりします。

さて、iPadのNewsstandアプリからイギリスのダイビング雑誌「DIVE」の1月号が発刊されたという通知がきたので見てみたら、P.22~23に何とも気になる記事が載っていました。

Shark fin trade moves on mantas The very survival of manta rays lies in jeopardy.

このレポート記事をどれぐらい信じていいのか解らないのですが、かいつまんで言うと世界的にフカヒレ漁が禁止される方向にある中(気仙沼港にはさらなる打撃だけど…)、今度はマンタやモブラ(小型のイトマキエイの総称)のヒレが狙われて乱獲され、その結果、それらは急速に数が減って世界的に絶滅の危機に直面しているとのこと。消費地は案の定中国で、「エイヒレ」ならぬ「エイエラ」に$500/Kgの値がつくそうな。

マンタ漁(DIVE誌2012年1月号の誌面より)
DIVE誌2012年1月号の誌面より

昔からマンタを食用にする地方はあったものの(例えばフィリピンのボホールの市場ではマンタが売られているとか。思いっきりアンモニア臭いそうだけど)、それとは次元が違う話です。まるで鉱物を採掘するかのように獲り尽くし兼ねないので。

なお、用途は熱冷ましらいのですが、どうやら根拠はないようで。つまりフカヒレで商売ができなくなったので、エイのエラを偽の漢方にでっち上げで儲けようという魂胆ですね。何てことをしてくてるんじゃ。まったくもう。

ちなみにP.26には日本の調査捕鯨に対する記事も控え目ながら載っていました。どうやらドキュメンタリーDVDの広告のようです。

私は捕鯨には必ずしも反対ではないものの南氷洋に出向いての調査捕鯨には疑問があるし、やっぱダイバーなのでクジラにしろマンタにしろ観光資源にした方が良いと思います。

スティーブ・ジョブズ伝記のiOSアプリは無事発売されるのか?

今週、スティーブ・ジョブズの伝記1巻が日本でも発売され、早くもベストセラーになっているようです。Appleファン、ジョブズファンのみならず、誰しもが潰れかかった瀕死のAppleを時価総額世界一にまで高めた人の人生を覗いてみたいと思うのでしょう。近代で「世界を変えてみせた」と祭り上げられる人は、他にはいませんしね。

本人が公認した唯一の伝記ということで遠からず私も読んでみたいとは思っていますが、分厚い本はもう買いたくありません。さしあたりiPhoneやiPadで読みたいなら紀伊国屋書店のアプリあたりで買えばいいのかな。

また、日本の版元のサイトには、iOSアプリとしての発売計画が進んでいるともされています。どうせならこちらの方がいいかな。特定の書店サービスとのリンクが要らないから。

ただし、アプリは現在Appleの審査待ちとのこと。審査の順番待ちに加えて検閲も通ります。過去の例でいくとAppleやジョブズらの生々しい描写があるアプリはことごとく審査で弾かれてたはず。

でも、さすがに今回は特例として通すのでしょうかね。