Windows 8がもたらす未来

いよいよ一週間後の金曜日、Windows 8が発売されます。私も少し前からお試し版を使っていますが、率直な感想は「…」。ちょっと言葉に詰まる感じです。Metro UI改めModern UIは一見するとシンプルで快適そうに見えるものの、どうにも思想的に無理があるような…。

Windows8のスタート画面
Windows 8のスタート画面は、「情報表示付きのランチャー兼アプリ実行環境」といった感じ

例えば、Modern UIによるスタート画面に「ミュージック」という項目が見つかります。でも、外部メディア内のバックアップから音楽ファイルをインポートしたい場合、Modern UI上では完結せず、旧来のデスクトップ画面を経由する必要があります。つまり、ユーザーは1台のマシンで毛色の違う二通りのUIを使いこなさなければならないわけです。これは多くの人にとって負担でしょう。

まあ音楽に関して言えば日本でもいずれダウンロード購入できるようにするはずです。もはやCDが売れない時代だし。

だとしても、タブレット用のOS(UIおよびアプリの実行環境)とPC用のOSが二段構えになっているハイブリッド方式では、多くのユーザーには受け入れられなさそうに感じます。

実際、ろくにパソコンを使ったことがない年老いた両親にWindows 8搭載タブレットをプレゼントしたとして、果たして使いこなしてもらえるかははなはだ疑問です。スタート画面のライブタイルなら目ぼしいものをタッチするだけですが、不意にデスクトップ画面に切り替わろうものなら、その度にヘルプを求められ、教えても教えても覚えられず、次第に訊くことも遠慮するようになって、いつしか利用も諦めるなんてのがオチだろうと。

Microsoft Surface
デスクトップ画面に切り替わることのないSurfaceなら、 ひょっとしたらiPadと同様に使ってもらえるかも知れませんが、 日本での発売は未定なのですよね。 完成度や実用性も未知数だし…

ちなみにAppleはiPadではファイルの存在をユーザーに意識させないように作ってあります。ファイル操作はMacなりWindows PCで行わせると。そもそも別のデバイスなので、それぞれのユーザーは無理なく受け入れられます。iPadを使っている途中でふいにMacの画面に切り替わるなんてことはあり得ません。そう、できることを不自然にならないように制限するのがAppleの極意、得意技ですね。

ときおりiOSとMacのOS Xの統合、あるいはタッチパネル採用のMacの噂も流れますが、Appleはそういう選択はしないわけです。用途によって最適なツールは違うのであって、林檎の皮をむくのに10得ナイフなんか要らないと。

一方、Microsoftは昔から「全部入りの何でもあり」に持っていきがちです。今回も、タブレット用のOSとPC用のWindows、両方を混在、連携させる形で載せてしまいました。まさに10得ナイフ的な考え方ですが、用途によっては100均で売っている果物ナイフにすら使い勝手で劣ります。

だいたいWindowsが使えるタブレットとしては数年前に「オリガミ」で大失敗したはずなのに、大して進歩のないものを出してくるとは…。

おそらく先行するiPadやAndroidタブレットとの差別化すべく、「膨大な数のPCアプリも動くタブレット」を目指したのでしょうが、だったら小型軽量のラップトップの方がよっぽど適しているわけです。

また、ホームユーザーならともかく、ビジネスユースではそもそもスタート画面は不要でしょう。何かしら業務を遂行しようとすれば、どうせデスクトップ画面に切り替えるのだから。 というわけで、Microsoftは遠からず以下のどちらかの方法を選ぶことになると思います。

  • Modern UIをオフにし、スタートボタンを復活させる設定項目を設ける
  • Windows 7の販売を続け、ダウングレードも認めるる

前者は「Windows 7のように使えるようにする」だし、後者はは「Windows 7の販売を止められない」と言い換えることもできます。いずれも後戻り、いや脇道にそれたのが元に戻る感じでしょうか。

Windows 8では販売価格やアップグレード料金を下げていますし、二世代のOSを継続的に販売、サポートし続けるなら、同社の収益性を下げますよね。PCメーカーも販売店もWindows 7機と8機を併売するとすると厄介な事になりそうです。特にユーザーサポート面で。アップグレードする人だけでなく、ダウングレードの需要もあるでしょうし。

よって私はWindows 8を「Windows MeやVistaの悪夢の再来」「Microsoftの漂流の始まりを象徴する製品」になると見ています。この先、ITベンダーも巻き込みながら迷走を続けることになだろうと。これまで何とか薄利でも頑張ってきた日本のPCメーカーも、いよいよトドメをさされるかもしれません。

Microsoftは自社製品を持つソフトウエアメーカー各社に「開発費持つからアプリをModern UIに移植してくれないか?」と持ちかけていますが、私が決定権者なら様子を見ますね。Modern UIおよびWindows 8搭載タブレットはきっとコケて、まるで「なかったこと」にされる可能性すら大だと踏んでいるので。

Windows 8で楽になったこと

いよいよ明日の未明(米国では今日)、新しいiPhoneとiOS 6のリリーズ時期が発表されますが、今回はWindowsの話。

来る10月26日、Windows 8が発売になります。

WIndows-8-logo

 Windows 8で個人的に嬉しいのはスクリーンショットの加工が楽になったこと。なにしろウインドウの外枠がベタ塗りの長方形なので。ウインドウ単体のスクリーンショットなら手間要らず。画面全体の場合でも簡単にトリミングできます。

ソフトウエア製品やWebサービスのマニュアル類を作成する際、ウインドウの絵を多用しますが、Windows XP・Vista・7ではウインドウが角丸だったため奇麗に見せようとすると四つ角を丸く落とす必要がありました。

また、Vistaや7はタイトルバーが半透明だったので背後の模様が透けて汚く写り、撮り直すこともしばしば。要するに余計な手間ひまがかかっていたのですよね。

私は以前、IT機器関連各社のマニュアル類を専門的に作成する会社に身を置いていたのですが、これであの会社の製作作業も少しは楽になったかも。でも一方でお得意先の製造業メーカーがことごとく事業を見直し、製品ラインナップが縮小されて受注の単価や総量は下がっているはず。せめてマニュアルの一斉改編ニーズによる「Windows 8特需」が多少なりとも埋めてくれると良いのですが…。

それにしてもMicrosofにとっては正念場ですね。Windows 8、PC向けにはそれなりに売れるでしょうが、Windows 8へのアップグレード料金は$39.99。Windows 7は$119.99〜だったので、1/3に値崩れした形です。

そして何といっても最大のテーマはモバイル市場でどう戦うか。拡大するこの分野で向こう1年以内に一定のシェア、プレゼンスを確保できなければ致命傷にもなり兼ねません。

Windows 8の特徴は二つのOSが同居、連携しているように見えること。Windows Phoneは当然として、タブレット端末でもスッキリしたタイル表示のModern UI design(旧称「Metro UI」)だけですべてを完結できれば及第。でも、何かを達成するためにいかにもWindows風のデスクトップを介在させる必要があるならアウト。だったら軽量のラップトップPCを使う方がよほど便利なわけで。

果たしてこのハイブリッド風OSで先行するAppleとGoogleの牙城にどこまで食い込めるかは見物です。私はかなり厳しいと見ているのですが…。

Microsoftのタブレットは受け入れられるか?

米Microsoftがいわゆるタブレット機を発表しました。「Surface」の名称を使うのだそうな。先代のSurfaceはテーブル一体型だったのですがね。

Microsoft Surface
Microsoft Surface。 手前の薄型キーボードはマグネットによる着脱式。なるほど、その手はありかも。 タイピングの感触は解らないけど…。

さて、このSurfaceはいくつかの意味で興味深いです。一番の注目点は「iPadに張り合えるか」、そして二番目は「PCベンダーとの関係はどうなるのか?」。しかもこの二つは密接に関連しています。

先行発売されるモデルはARMアーキテクチャなので既存の膨大なWindowsアプリはそのままでは動かないはずですが、Microsoftは例によって「開発費は持つからアプリを移植して」の作戦でソフトウェアハウスを口説きまくっているので、遠からず対応アプリは増えるはず。よって鍵はARMで動くWindows RTがiPad並に使えるものになっているか。完成度と使い勝手の基本的な部分ですね。一応、ユーザーインターフェースのMetro UIは前評判が良いようです。

でも、それが仮に申し分ない完成度だったとしてもMicrosoft Surfaceが先行するApple iPadに追いすがれるかは何とも。というか私はかなり厳しいと見ています。それも絶望的に。なにしろ世間では「諸事情でMacは買いづらかったけどiPadなら積極的に導入できる」という企業や団体も多いので。Surfaceが発売される年末商戦までにはiPadの導入実績はさらに増えているし、Windowsのときとは打って変わって、買ってもらうには「あえて主流のiPadではない理由」が必要になるのでしょうから。

そしてSurfaceの先行きが厳しいと思うもう一つが、PCベンダーとの関係性が確実に悪くなるだろう点。これまでMicrosoft純正品のWindows PCはなかったのに今度はそれを出してきたわけです。PCメーカーにしてみれば、これまでは運命共同体だったはずの取引先が競争相手に変貌するわけです。しかも肝心のOSを一手に握っているというタチの悪さ…。

よってPCメーカー各社はApple、Google、Microsoftのどことどのように組むのか、あるいは組まずにビジネスを展開するのかを熟考することになります。ならばMicrosoftにしても、Windows PCのときのように陣営のパートナー企業の波及力を頼んで一気にシェアを拡大するという作戦は今回は取れそうにありません。

折しも今朝のNIKKEI NETにはこんな記事が出ていました。

NECや日立製作所など国内の企業70社は米アップルの製品の業務利用を促進する一般社団法人「iOSコンソーシアム」を21日に設立する。アプリケーションソフト(アプリ)を共同開発するほか、技術者も育成し、利便性を向上させる。

とのことです。ポストPC時代にMicrosftがパートナーとなり得ないと判断したかどうかは解りませんが、Surface投入までの何ヶ月かを無為に過ごすわけにもいかないので、各社とも既に実践可能であるiPad系に注力することにしたのでしょう。

もちろん国内外では事情が違うにしろ、結局、Microsoft Surfaceは「出遅れたこと」と「味方が少ないこと」がネックになり、かつ「iPadほど使いやすくなかった」が致命的で、大差でもってApple iPadの後塵を拝し続けることになるというのが現時点での私の予想です。

Windowsに腰砕け

私のお仕事の一つは絵書き。といっても絵画やイラストではなく、PCやiOS用アプリなどのアイコン作成なんかが主。もちろん多くはMac上で IllustratorやPhotoshopを駆使して描くのですが、Windowsアプリのアイコンを依頼された際は最終的にWindows上での表示 確認が必要になります。

そして下図はWindowsでVisual Basicを使った際に表示されたメッセージ。

警告ダイアログ
これって何なんだか。 メッセージの内容は成功だけど、バッテン印が付いているし…。

操作的にはMacで作成した.icoファイルを読み込ませたものの、うまくいかなかったようなので、「読み込み操作に関するエラー処理を正しく終了しました」という意味合いでしょうかね。へなへなと腰砕けになる思いです。

もっともWindowsってこんなことが多いのですよね。今回はVisual BasicなのでWindowsそのものではないものの、やはりMicrosoftの製品ですし。

先月、スティーブ・ジョブズの追悼イベントで茂木健一郎さんがWindowsをこき下ろして同席した西和彦さんを怒らせたそうですが、それが不穏当な発言だったにしろ、その根拠は解る気がします。例えば、Wordで作成した書類をプリントアウトすると画面では1ページに治まっていた文字が次のページに送り出されて2枚印刷されるなんてMacではあり得ない話です。

パソコン全盛の時代の不幸は大多数がMacではなくWindowsを使わざるを得なかったことでしょう。Windowsは知っている人が使う分には問題は起きなくても不慣れな人にとっては難しい代物です。対してMacの方は、あまり覚えることもなく使えるように作られています。何というか、同じパソコンでもWindowsはMacよりも高いリテラシーを要求するのですよね。

まあ、そうは言ってももはや主役はスマートフォン。先行してしのぎを削るiOSとAndroidにWindows Phoneが追いすがろうという図式で、前ほどパソコンが重視されることもなくなりました。パソコンは専門職の人が業務用に使うものと考えれば多少扱いが難しかろうが必須スキルと言えましょう。Windowsの世界はこれでいいのかも。難しい部分がなくなったら労働への対価もひたすら下がっていくのだし。

もし大前研一氏がAppleを経営したらボロボロになるだろうな

今年は原発専門家として再認識された大前研一氏(確か昔、都知事選に出たこともあったなぁ…)が日系BPネットに「アップルは「ジョブズ的天動説」を崩せるかという記事を書いています。

中盤まではジョブズの経歴の紹介など凡庸な内容、後半は珍妙な提言という構成です。P.4からのお粗末さには痛々しささえ漂います。もし仮に大前氏がCEOになったならAppleは凡庸な会社に成り下がって悲惨な運命を辿るでしょう。

えば、このくだり。

アップルは「アマゾン化」するべきだと私は考える。すなわち「売ってナンボ」の商売をするのだ。システムと販売だけを押さえ、プラットフォームはオープンにする。iTunes StoreやApp Storeの品揃えやサービスを充実させて、そこで大きな利益を確保するのである。つまり、アップルの携帯電話を持っていなくてもアプリケーションを買ったり音楽や映画を購入することができるようにするのだ。

小飼弾氏が看破するように、おそらく彼にとっては顕著な成功事例だけが理解可能な評価の対象なのでしょう。つまり、かつてのMicrosoftがやったように市場を支配することが唯一の勝利の方程式だと。でも現実は盛者必衰の理りの通り。確かに90年代半ばからの10年かそこらはMicrosoft全盛の時代と言えましょうが、今やMicrosoftは売り上げ規模こそ保っているものの新時代に向けた有効打が打てず業界内のプレゼンスは下がり続けています。

そして大前氏の分析がお粗末なものになっている一番の理由は、AppleがAppleである所以を理解していないか、あえて無視していることでしょう。Appleに「iOSをオープンにせよ」は「フェラーリを誰にでも作れるようにしろ」みたいな話。そうなれば日本のメーカーはとびきり低燃費の、インドのメーカーは$5,000のフェラーリを作って世界中フェラーリだらけになるかも知れませんが、それはもうフェラーリとは名ばかりのまるっきり別物です。
 
確かにアライアンスを組めば今まで以上の市場支配力は得られるでしょうが、それはAppleの望むところではありません。ハードウェアとソフトウエアとサービス、すべてがAppleの職人の手によって開発され、それらが絶妙に調和していることが大事なのであって、オープン化で粗悪な「中華iPhone/iPad」の類いが出回ることを認めれば粗悪なユーザー体験に失望を覚える人たちが続出して消費者は離れていきます。今日のiPadのブームとMicrosoftの行き詰まり感はWindows搭載ネットブックの大失敗と決して無縁ではないはずです。
 
もちろんAppleの今のやり方が未来永劫通用するとは思いませんが、彼らが「自身のブランド価値と好評なユーザー体験を犠牲にしてまで市場支配を進める価値はない」と考えるのは当然でしょう。
大前氏にこの分野の未来を語らせるのは無理があるのではないでしょうかね。