王者の時代が終わりつつあるという話

今日読んだネット記事で目に付いたものを二つ。

一つ目は日経新聞サイトの「1通のメールが物語る任天堂の苦境」。Nintendo 3DSの1万円値下げに象徴される同社の苦戦はのおさらい記事です。

もちろん背景にあるのは市場構造の変化。DSで言えば本格的なゲームはPSPに譲り、脳トレなどでより普遍的な路線で棲み分けて来たわけですが、ひとたびiPhoneを始めとするスマートフォンが流行ると触ってもらう時間が減りました。「お手軽路線」は「もっとお手軽」の前には弱いものです。かつて脳トレに励んでいた層はそもそも熱心なゲーマーではないので、必需品であるケータイのオマケ機能でそこそこ楽しめるんなら、わざわざDSも持ち歩く機会は減るのも当然でしょう。両者では個々のタイトルの価格も桁一つ違いますし。

とは言え「DS Phone」で勝負できようはずもなく、Wiiにもかつての輝きはないので、望みはゲームのヒット作に恵まれることぐらいでしょうか。まるで金鉱を掘り当てるような賭けだ…。

二つ目はITメディアの「2人のスティーブの差?それは「能力」だろうね――米Googleのシュミット会長」。 最も印象的なのはシュミット氏の以下の発言。

Microsoftはソフトウェアのライセンスをコントロールして、ハードウェアのイノベーションを阻害した。消費者には目を向けず、業界の構造を支配することに腐心した。それに対してAppleは「消費者が抱える問題を解決すれば売り上げが伸びる」と考えた。

彼が元Appleの役員でひいき目があるにしても正しい認識だと思います。そしてその結果どうなったかというと、Microsoftは長らく業界の盟主の座に君臨し、一頃はOS市場で90%以上のシェアを誇ったものの、PCがケータイよりも安く売られるような今日では存在感が薄れゆく一方だったりします。果たしてWindows Phoneで反転攻勢が可能かは見物ですね。

折しも世界中で経済の雲行きが怪しく、企業は本当に価値がありそうに思えるものにしかお金を出さなくなっています。そうなると時代にマッチしているのは自分たちの課題をより直接的に解決してくれるAppleの方ということになりましょう。ということで今や多くの企業がパソコンではなくiPadで遂行できるように業務を再設計しています。

ITの主役がパソコンからスマートフォンやタブレットに移りつつあるということは、いよいよ人々が書類を作らない時代に入っているととを意味しているのだと思います。もはやそれをやるのは一部の人たちだけで、その他大勢は通話とメール、入力フォームのチェックぐらいでことが足りてしまうような。

でもそれって当然の話ですよね。ITが発達すればするほど仕事の本質は人力による部分にフォーカスされていくのは。スタートレックの世界のコンピュータは人が話しかけて操作しますが、やはりそういうことなのでしょう。人間がやるべきこと以外は全部肩代わりしてくれるのが、あるべき進歩の姿なのだと。もちろん良いことばかりではありませんけども。ITの発達は雇用を減らす方向に働きやすいので。

勢いがあるときは、まさか任天堂やMicrosoftがこうも失速するなんて考えられなかったかもしれませんが、そこは「盛者必衰」。いや、むしろ「進化の法則」でしょうかね。強いものが生き残るのではなく、変化に適応できたものが生き残るという。差し当たりAppleは変われましたが任天堂やMicrosoftはどうでしょうかね。

AppleのiPad事業がMacを抜くことの意味

Appleの4-6月期の決算発表によると、Macの売り上げ51億ドル(390万台)に対し、iPadは60億ドル(920万台)に上ったとのこと。Macは敬遠しがちだった法人ユーザーがiPadには飛びついているという話を聞きますしね。

iPadのがこれほど売れているということは、単に法人ユーザーがこれまでPCでやっていた業務をiPadで代替するようになっただけでなく、導入した法人が業務をiPadで遂行できるように再設計していることを意味します。例えば文字入力を必要としていた報告の類いをタッチ操作で済むように整えるような。中には切り捨てられる作業も出てきましょう。その結果ワークフローが洗練され「iPadの導入で業務効率が上がった」「残業が減った」といった感じの事例、実績が摘み上がっていきます。それがまたiPadの普及、導入を後押しするわけです。

ちなみにMicrosoftの同時期の決算も総じて堅調だったものの、Windows部門は1%の減収だったそうな。無理もないでしょう。さすがに母数が巨大なので数字が一気に動くことはないにしても今後は脱Windowsの流れが加速すると予想します。

もっともiOS 5が出てしまえばWindows PCのみならずMacのプレゼンスも低下しそうですが。

Excel依存症

世の中には書類なら何でもExcelで済ませようとする困った人たちがいますよね。Excelは適した用途には便利ですが(決して使いやすいとは思わないけど)、そうでない用途に使われていて付き合わされると辟易することになります。

前にも書きましたが、旅行申込書をExcelで記入させる旅行代理店は最低です。

この場合のExcelの難点は主に以下の通り。

  • わざわざ予約番号、旅行先、発着地などを書かなければならない
  • 文字が変換されかねない
  • 未記入のチェックが効かない

さらに、Excelファイルには以下の文言が。

原則として印刷して弊社にご返送下さい。但しメールでのご送信をご希望される場合は、
内容を漏れなくご入力いただいたのち、ファイルパスワードをかけてご返信ください。
パスワードは別途担当宛にお電話いただくか、別メールにてお送り下さい」

何だかなあ。どれだけ利用客に手間を掛けさせれば気が済むんだ…。

AndroidがiPhoneに勝つんだという妄言

AndroidがSymbianやiOSを抑えて世界のスマートフォンOSのシェアでトップに立ったようですね。

なるほどAndroid対iPhoneは多勢に無勢。かつてのWindows対Macのような構図にも見えます。

ただし決定的に違う点が。Windowsアプリは基本的にどのメーカーのPCだろうが自作機だろうが普遍的に動いたわけですが(Microsoftが最も注力していたところなので)、Androidではそうはいきませんよね?同じAndroid搭載だからといって、他で動いているAndroidアプリが動くとは限らないわけです。うろ覚えですが確かMS-DOSの時代にはそんなこともあったような…。

まあ、数の上ではAndroidがiPhoneを遥かに凌駕するかもしれません。でもユーザの満足度やらアプリ市場の賑わい、そして何よりもメーカーの収益性には雲泥の差が出るのでしょう。


Adobeにはもう付いていかれないかも

AdobeからAcrobat Xが発表されました。私もAcrobatは頻繁に使うのですが、正直ありがたくないアップグレードの連続に辟易しています。

まず不信感を抱かせてくれるのが発売時期とアップグレードの方針。AcrobatはAdobe Creative Suite(以後CSと表記)にも付属する製品です。そのAdobe Creative Suiteはこの春にアップグレードされCS5となりました。そしてAcrobat Xの発売は12月。開発スケジュールの関係でCS5には入れられなかったにしても、CS5の購入者には無償アップグレード権が供与されても良さそうなものです。

過去の例の通りAcrobatの新バージョンを含めたCS5.5が出るようなら、11月までにCS5を買った人はAcrobat 9、12月以降にCS 5.5を買った人はAcrobat Xを有することになり、仲間内でのバージョンの不一致という面倒なことも起こりかねません。それにCS5購入者に対して半年かそこらで最新版でなくなる製品を抱き合わせで売った点も腹立たしいところです。

それから悪意すら感じるのが製品案内にある64bitに関する記述。FAQには「Acrobat Xファミリーは64bit対応ですか?」の問いに「はい。」とあり、Windows環境では確かに64bit対応をうたっているものの、Mac OS X上で64bitアプリとして動作するかどうかには触れられていません。ということは、おそらく64bit対応はできていないのでしょう。だとすると、数千ページ規模のPDFを扱うと容赦なく落ちるという現象は相変わらず改善されていないものと思われます。Mac OS向けの体験版は用意しないとのことですし、ちゃんと「Macの場合は64bit動作に非対応」と書くべきでしょう。

もっとも、私はもうAdobeに期待することはあまりありません。既に所有する現行バージョンが使い続けられれば仕事には事足りますし、目ぼしいバグを潰さないまま、小粒で「そりゃ誰かは使うかもしれないけど…」的な機能追加とGUIの変更でアップグレード版とする手法には、ほとほと愛想が尽きました。

いっそのことAdobeはMicrosoftの傘下に入り、Adobe CSをWindows版のみで展開してくれてもいいとさえ思います。その際、Mac版チームを分社化してくれればもう言うことなし。各製品をWin版とMac版で同じように振る舞うようすることに相当な無理があるように見えますし、その際、割を食うのは決まってMac版なので。

ああ、だとすると私がAppleに期待するのはMac OS Xの遺棄でしょうかね。サブセットとして血を分けたiOSの方をMacで動作させるのに相応しいスケールに育て上げて、ソフトウェア開発に使えるAPIも一新し、あらゆるサードパーティ製アプリのリスタートを促すような。