アップルは失敗を繰り返しアンドロイドに負ける?

週刊ポスト2011年1月7日号によると、かの大前研一さんいわく「アップルは失敗繰り返しアンドロイドに負けると予測」とのこと。まあ、そう言えば注目は集められるでしょうからね。でも、ずいぶん的外れ、というかどうにも蒙昧な論評…。 せっかくの機会なので少し反論しておこうと思います。

OSは搭載されるハードの数を拡大したところが勝つのである。

まず、この認識が前近代的。大前さんの中では、かつての「パソコン市場ではMicrosoftが勝者でAppleが敗者だ」というデータが更新されていないのでしょうね。でも現実はというと、Microsoftが新しいものを生み出す力を失って久しいのに対して、Appleは新製品によるスマッシュヒットを連発し続けています。パソコンの話に限っても、停滞感が漂う”勝者”Windowsを尻目に”敗者”Mac OS Xは次期バージョンを準備中です。いわゆるパソコンの時代を現代の前史と考えれば恐竜とほ乳類のように例えることができるかもしれません。恐竜の時代は長かったものの、細々と命を繋げてきた方が後々繁栄を遂げるのだと。

ジョブズがスマートフォンで勝者になりたいなら、iOSをアンドロイドと同じくオープンソース、あるいはそれに近い方式にして誰でも自由に使えるようにし、SIMカードもフリーにしてユーザーがキャリアを自由に選べるようにすべきなのである。

これまた数を獲った方が勝者という古くさい硬直した考え方ですよね。確かに数字の上ではアンドロイドがiPhoneを圧倒していくでしょうが、そのアンドロイド陣営のメーカーは果たして成功者でしょうか?Appleよりも大きな利益にあずかれるとでも?Googleにいたっては端末のOSがiOSだろうがAndroidだろうが構わないわけですし。

しかも「iOSをオープンソースに」って、正気の分析とも思えない。そうやってiPhoneの世界観を無軌道なものにして、かつ粗悪なiPhoneもどきを乱造させるべだきとでも?まるで「程度の低い悪魔の囁き」みたいです。それこそジョブズに鼻で笑われそうな。

で、実際のところ「比較的マイノリティの座に追いやられるAppleが巨額の利益を得続けるのに対し、アンドロイドを採用したメーカーの収益性は…」という状況になるのではないですかね。Macに勝ったはずのWindowsを採用するメーカーはどこも儲かっていないのと同じ構図です。

まあ、何というか、大前研一さんはこの世界の論評するには相応しくない人物なのでしょう。いや、これを真に受けてしまいそうな読者に向けて、あえてトンデモな説を唱えてくれる人として編集部が白羽の矢を立てたのかな。

過剰品質が自分たちの首を絞めているのではないか説

昨日、会社の人とBiND for WebLiFEをめぐって議論になりました。

BiNDの良い点は、その人が言うには、

  • 見栄えの良いWebページが簡単に作成できること
  • OSやWebブラウザによる見栄えの違いを吸収してくれること

なのだそうです。でも、私にはどちらにも異論があります。

確かにBiNDでは簡単な操作だけで見栄えの良いWebページが作れるのですが、一方でUNDOがろくに機能しないばかりか、ちょっとした操作がサイト全体に波及しかねないため、よくよく慎重に事を運ばないと容赦なく崩れていきます。意外におっかないアプリだったりするわけです。まあ、このあたりはトレードオフですね。地雷を踏まない進み方を体得すれば、無難に目的地に到達できるようになるのかもしれません。

そしてもう一方。確かに世間ではいまだにIE6なんかを使っている人が少なからずいたりします。「IE6は使ってはいけない」はICT界の人には常識でも、それ以外の人は問題とも思っていないわけです。そこで「現実がそうなのだから対応せざるをえない」と考える人も多いと思うのですが、そもそもそれが問題なのではないかと。

具体的にはユーザがIE6で表示しようとしたら、例えばこんなメッセージを出すべきなのだと思います。

IE6をお使いのみなさまへ

Internet Exproler 6は開発元であるMicrosoftによるサポートが終了しており、使い続けるとセキュリティ面での問題が発生することが考えられます。
恐れ入りますが、より新しいバージョンのInternet Exprolerか、他のWebブラウザを使ってアクセスしてください。

そうじゃないと社会が進歩していきません。実際、Yahoo! JAPANのようにこれをちゃんとやっているサイトもありますよね。ならば、まだユーザがいるからとIE6にまでサイトの互換性を確保するのは、IE6を推奨、容認し続けていることになってしまいます。しかも余計な工数をつぎ込んだ上で。これはもう馬鹿げた過剰品質の一例と言えるでしょう。

過剰品質といえば、日本は新幹線をカリフォルニアなどに輸出しようとしていますよね。なんでも「新幹線は15秒単位で運行スケジュールが決められていて、これ以上ないほどの品質を誇っている」のだと。でも、仮にカリフォルニア州がそれほどのシステムを導入してしまったら、運行やメンテナンスにもそれ相当の人員が常時必要となるわけですよね。かの地で日本人のような時間の感覚を持った人を多数雇い続けるのは、果たして現実的なことなのでしょうか。

結局、15秒単位で厳密な運行スケジュールが立てられる鉄道システムよりも、平時はせいぜい15分程度しか遅れなければ御の字と言えるぐらいのシステムの方が好まれるのではないかと。財政難の折り「ハイコストな高性能」よりも「リーズナブルな必要十分」の方が選ばれるのは当然です。

品質の向上に心血を注ぎ、お金をかけすぎるのは、一見美得なようでも、まわりまわって自分たちの首を絞めているのではないかと思った次第です。

なるほどePubが目指すところは…

海上忍氏の『来るべき「EPUB 3.0」を整理する(1)』を読んで、ようやく解った気がします。ePubがどこを目指しているのかが。簡単に言うと「DRMがかけられるWebパッケージ」なのでしょう。

よく知られているようにePubの中身はWebみたいなもの。そしてWebは良くも悪くもモノの価格を失わせました。そして最も顕著なのが情報、次にコンテンツ類。「もはや情報なんかタダで当然」と言わんばかりに無償提供か安価での提供を強いられてしまっています。コンテンツ類も非合法なものまでが氾濫してしまっています。

ならば、Webページをひと塊にして鍵をかけて、お金を払った人にだけが開けられるような鍵をを掛けて売ろうと考えるのも当然。いや、海上氏の記事にはDRMの話は出てきませんが、ePub規格の背景にはきっとそんな思惑が働いているんじゃないかと思います。

で、私の個人的な予想はこうです。

確かにePubはデファクトスタンダードとして広く普及する。
けれども玉石混交、無軌道に枝分かれして次第に収集がつかなくなる。
Webがそうだったように。

Chrome、Lion、iOS、Android… 〜OSの話〜

Chrome PC

Google Chrome OS搭載PCが来年半ばにも登場するようですね。当初今年の秋と言われていたので、半年あまりずれ込む形ですが、まあ良いでしょう。かつてはOSのアップデートにすら業界を挙げて一喜一憂していましたが、もはやPCの世界ではOSうんぬんが語られることがめっきり少なくなりましたのでね。

来年半ばといえば、ちょうどMac OS X 10.7 Lionも発売になる頃です。もっともChrome OSとLionはあまり競合しなさそうですが。当面、Chrome OSのライバルは巨大シェアのWindowsでしょうね。

かねてから私はパソコンのOSは、以下のように修練されていくのが理想的だと思っていました。

  • ビジネス ← Linux
  • ホビー ← Windows
  • クリエイティブ ← Mac OS X

決まり切ったことしかしないビジネスユースなら、その気になれば何でもできてしまうWindowsではなく必要十分に仕立てられたLinuxを使う方が理に適っています。

それでも豊富なWindows資産への依存やLinuxのつかみ所の無さからWin→Linuxのシフトは一向に進んでないわけですが、Chrome OSによっていよいよ状況も変わるのではないかと。少なくとも日本以外では。

以前に聞いた話だと、日本ではIT投資の減価償却が終わると「ようやく収穫の時期がやってきた」と考えるのに対して、欧米では数年間単位でITシステムをリプレースしていくのが一般的なのだそうで。減価償却が終わる頃には次のタームが始まるということですね。だとすれば、どうにもならないWindows系資産がない限り、Chrome OSへの移行は割とスムーズに進むのではないでしょうか。

他方で日本では「10年前に開発したWindowsアプリが業務の命綱」みたいな風潮が根強く残っているとも聞きますし、そう簡単にはいかないかもしれません。悲しいかなこの国はベンチャー企業が跋扈して産業界の新陳代謝が活発になされている状況とはほど遠いですし。数年後、外国人から「日本の企業はまだWindows使ってるの?」と驚かれることになるのかもしれません。

実際、セキュリティやコンプライアンスの観点からしても、汎用PCに汎用OSを載せて社員に支給するよりもクラウドサービス専用端末を割り当てる方が何かと無難でしょう。要は全業務をクラウド上でまかなえるところまで持っていけるかどうか。そこで諸外国と日本とでは大きな温度差が生じかねないようにも思えます。

で、OSの話で言えば、近年の話題の中心はモバイル、それもスマートフォン分野。iPhoneがバカ売れしている一方でAndroidの躍進も凄まじいものがあるのだとか。まあそこは、かつてのMac or Winの構図と同様、数の上ではAndroidがiOSを凌駕するのでしょう。

アンドロイドキャラクター

さて、「遠からずそこにWindows Phone 7が食い込んでくるだろう」と見る向きもありますが、それはどうでしょうかね。もはや時すでに遅しの感がしないでもありません。既にかつてのWindowsのポジションをAndroidが占拠してしまっているのではないかと。後発でも採用端末を増やせるか、法人客を囲い込めるか、アプリ開発者を多く引きつけられるか…。何かと競争条件は厳しそうです。もし豊富なWindowsアプリがケータイで動くようになっても嬉しくはないですしね。私はMicrosoftはシェアこそ保ちつつもプレゼンスの面では今後急速に力を落としていくのではないかと見ています。

そうそう、先日SONYがGNUstepがベースのデジタル家電アプリプラットフォームを発表していました。そのニュースを読んでの私の感想は「ああ、10年前にやっていれば良かったのに…」です。そうしてOSを必要とする自社製品すべてに搭載するぐらいの取り組みを行っておけば、今ごろはライセンスを供与する側になっていて、今日の凋落は免れたかもしれないなあと。例えば、BD関連機能を省いたPS3をネットトップとして投入したり、BDレコーダに独自OSを組み込んで磨きをかけたり、VAIOをWindows版と独自OS版の両睨みで展開するといった展開ですね。もっとも当時はMicrosoftに席捲されて死に体寸前のAppleを見せられていたわけで、自前OSを持つことの重要性なんぞを理解することが難しかったのかもしれませんが。

ePub日本語拡張仕様策定が事業仕分けを食らった件

11/16、新ICT利活用サービス創出支援事業が事業仕分けで予算計上見送りの判定を食らいました。ePub日本語拡張仕様策定なども水を差されたわけですが、まあ当然でしょうね。私もUstreamを見ていましたが予算要求する側の説得力が乏しかったので。もっとも事業仕分けには法的拘束力がないので実際に予算が付かないかは解らないのですが。

要求側の主張はこんな感じだったかと。

  1. 国が予算を付けなければ標準化は行われなず、日本で電子書籍のビジネスがシュリンクする
  2. 企業ごとにフォーマットが異なればコンテンツの囲い込みが進んで国民にとって迷惑
  3. 放っておけば3グループに分裂する状況

それって何なんだか。1や3は単に出版業界の足並みの悪さを嘆いているだけですし、2に関して言えば、もう既にたくさんの書籍がiOSアプリとして登場しています。もちろん既刊本、新刊本の総数からすれば僅かですが、少なくともePubの日本語拡張仕様を待たなければ出版ができないといった状況ではなく、iOSアプリは他の機器では動かないので事実上の囲い込みもとっくに発生しちゃっているわけです。

百歩譲って策定した日本語拡張仕様が早急にePub規格に採用されたとしても、果たしてiPadで先頭を行くAppleがiBooksにそれを実装してくれるかは不明です。というか多分やらないと思います。なぜなら10年くらい前までの「Appleにとって日本は米国(英語圏)の次に重要な市場」だった頃とは大きく事情が変わってきていますので。頼みの中国語もとっくに横書きに切り替わっていますし、いまさらAppleが日本ローカルの事情を優先的に汲み上げるようなことはしないだろうと。GoogleやAmazonもそう。なにしろ日本の産業界は彼らを「黒船」と称して半ば敵視している感もありますし。

まあ、日本語拡張仕様対応のePubビューワは国内メーカーが各デバイス向けに開発するにしても、そもそも「ビューワの都合で改ページ、リフローされてはかなわん」という作家もいるはずです。物理サイズが固定される紙の本ならカッチリとした禁則が利いていたものが、ePubではデバイスの表示サイズに合わせてリフローされる結果、往々にして「適当な禁則」に成り下がってしまいがちです。一行あたりの文字数が少なすぎたり、変な区切りで次ページに泣き別れたり…。これに耐えられない作家は少なからずおられるはすで、やはりPDFかアプリとしての配布を望むでしょう。

穿った見方をするなら、ePub日本語拡張仕様、フォーマットの標準化うんぬんは、国内の著名な作家の方々に対して「もうすぐ状況が整うから、どうか海外の電子出版会社と組むようなことはせずに待ってくれ」という、国内出版業界の後ろ向きな防衛戦術のような話なんじゃないかとも思えてなりません。

ともかく、ePub日本語拡張仕様策定の方は今年度の予算でいいところまで行っているとも聞きますので、私も仕分け人と同意見でわざわざ予算をつけて国が関与すべき話ではないと考えます。それにIT系ビジネスの世界では先に主導権を握った者が往々にして勝つわけで、うだうだやっていれば周回遅れになるだけです。ここで勝負をかけたい企業は、そんなことに惑わされずに、自身が最も妥当と考える方式でもって、さっさと実績を作りにかかった方が得策でしょうに。

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追記。

このエントリを書いた後に「どうやらAppleはWebKItに日本語拡張仕様を盛り込もうと頑張っているらしい」という噂を聞きました。

現状でもSafariはルビに対応しています。ただし行間隔が無残に開いてしまいますが…。

もちろん真偽の程はわかりませんし、それが本当でも途中でキャンセルにならないとも限らないでしょう。でも、これをやられるとまたAppleやGoogleに美味しいところを取られ、主導権を握られてしまいます。ローカル言語による一種の参入障壁があっさり乗り越えられて、国内メーカーは後追いせざるを得なくなるような…。ならば来年度の活動なんてのは無意味なわけですから、やはり仕分けられて当然です。仕様が決まればさっさと実装して市場で展開した者が勝ちなんだから。