Adobeにはもう付いていかれないかも

AdobeからAcrobat Xが発表されました。私もAcrobatは頻繁に使うのですが、正直ありがたくないアップグレードの連続に辟易しています。

まず不信感を抱かせてくれるのが発売時期とアップグレードの方針。AcrobatはAdobe Creative Suite(以後CSと表記)にも付属する製品です。そのAdobe Creative Suiteはこの春にアップグレードされCS5となりました。そしてAcrobat Xの発売は12月。開発スケジュールの関係でCS5には入れられなかったにしても、CS5の購入者には無償アップグレード権が供与されても良さそうなものです。

過去の例の通りAcrobatの新バージョンを含めたCS5.5が出るようなら、11月までにCS5を買った人はAcrobat 9、12月以降にCS 5.5を買った人はAcrobat Xを有することになり、仲間内でのバージョンの不一致という面倒なことも起こりかねません。それにCS5購入者に対して半年かそこらで最新版でなくなる製品を抱き合わせで売った点も腹立たしいところです。

それから悪意すら感じるのが製品案内にある64bitに関する記述。FAQには「Acrobat Xファミリーは64bit対応ですか?」の問いに「はい。」とあり、Windows環境では確かに64bit対応をうたっているものの、Mac OS X上で64bitアプリとして動作するかどうかには触れられていません。ということは、おそらく64bit対応はできていないのでしょう。だとすると、数千ページ規模のPDFを扱うと容赦なく落ちるという現象は相変わらず改善されていないものと思われます。Mac OS向けの体験版は用意しないとのことですし、ちゃんと「Macの場合は64bit動作に非対応」と書くべきでしょう。

もっとも、私はもうAdobeに期待することはあまりありません。既に所有する現行バージョンが使い続けられれば仕事には事足りますし、目ぼしいバグを潰さないまま、小粒で「そりゃ誰かは使うかもしれないけど…」的な機能追加とGUIの変更でアップグレード版とする手法には、ほとほと愛想が尽きました。

いっそのことAdobeはMicrosoftの傘下に入り、Adobe CSをWindows版のみで展開してくれてもいいとさえ思います。その際、Mac版チームを分社化してくれればもう言うことなし。各製品をWin版とMac版で同じように振る舞うようすることに相当な無理があるように見えますし、その際、割を食うのは決まってMac版なので。

ああ、だとすると私がAppleに期待するのはMac OS Xの遺棄でしょうかね。サブセットとして血を分けたiOSの方をMacで動作させるのに相応しいスケールに育て上げて、ソフトウェア開発に使えるAPIも一新し、あらゆるサードパーティ製アプリのリスタートを促すような。

やっぱ電子書籍ってダメなんじゃね?

私は会社の業務で電子書籍ビジネスを興味深く見守っているのですが、どうにも成功への道筋が見えてきません。中にはヒット作品も出るのでしょうが、電子書籍時代といえるものが本当に到来するかというと…。

例えば紙の本の世界では、近年のベストセラー書籍として村上春樹さんの『1Q84』が挙げられます。昨年5月の発売から僅か2ヶ月で発行部数200万部を超えたメガヒット作品ですが、ちょっと思うところが。2巻で200万部超なら購入者数はざっくり100万人。凄い数ですが、日本の総人口1億2,700万からすると1%弱。つまり品薄感も薄れてきたあの時点で99%以上の日本人は大人気作品を購入していなかったことになります。この割合は第3巻が加わった現在でもあまり変わっていないはずです。

もっとも実際には家族や友人、あるいは図書館から借りて読んだ人やBOOKOFFなどで中古品を買い求めた人も大勢いるはずなので読者の総数はもっと多くなりますが、それでも新品を購入した人は国民の1%程度。逆に言うと「超ベストセラー作品ですら、対象となる人口の1%にしか買わせる力がない」ということになりましょう。

他の例としては、確か『ハリー・ポッターと賢者の石(シリーズ第一巻)』が発行部数で500万部を超えていました。小中学生の必読書的なポジションになれば人口の5%くらいまでにはアプローチできる計算です。

もちろん中には村上春樹作品もファンタジー作品も読まないけど、日ごろから本を買うことに抵抗のない熱心な読書家という人もいるでしょうから正確な数字にはなり得ないのですが、これらの例を踏まえて言えるのは「実際にお金を払って本を買う人の割合は、全人口の内のせいぜい数%程度」ということではないでしょうか。そもそも本が次第に売れなくなってきたから出版不況と言われるのでしょうし。

これを電子書籍に当てはめてみます。仮にiPadが100万台売れているとして、1Q84クラスの本でも潜在的な購買層の割合が1%なら最大数売れても1万部。当然、他の本だと数千部、数百部といった規模に下がるはずです。

iPadの他にもいわゆる電子書籍端末は続々と登場してきます。データフォーマットを汎用性の高いePubにすればiPhoneやその他のスマートフォン、それにPCも電子書籍リーダーとしてカウントできるので母数はさらに大きくなりますが、人々はそれらを必ずしも書籍用として買っているわけではないので当てにはできません。

その上、紙の本との食い合いも起こります。なにしろ本一冊はiPadよりも圧倒的に安く、貸し借りやBOOKOFFなどに買い取ってもらうことも容易ですが、電子書籍では難しいものがあるので相変わらず紙の本の需要は根強いとも考えられます。

だとすると、もし電子書籍の品揃えが充実してきたとしても、それこそ紙の本の発行を中止にでもしない限り、いつまでたっても電子書籍からは十分と思えるだけの収益が上がるようにはならないのではないかと。現段階でそこそこ売ろうと思えば、SNS的なサービスとからめてコミュニティとして守り立てるといったことが必要になりそうです。またコストが嵩んでしまいますし、本を読んで楽しんでもらうというよりも、仲間内で盛り上がるためのネタの提供みたいな位置づけになってしまいます。それは悪いことではないでしょうけど。

いや、出版社各社が次第に体力をすり減らせていけば、どこかで電子書籍オンリーに切り替え、そちらの方が都合がいいということも起こり得るかも知れませんが。

ああ、でもKindleの普及度が高く、iBookStoreも開始されていて、しかも街の本屋さんも潰れまくっている米国などでは電子書籍は急速に発展していくのかも知れません。また日本は趨勢から取り残されるのだろうなぁ…。

Mac OS X 10.7 Lion

10月20日、米国にてスペシャルイベントが開かれるとのこと。この招待状からしてMac OS X の次期バージョンが発表されるのは間違いないでしょう。

Back to the Macバナー

楽しみです。 なにしろMac OS Xは現行のSnow Leopardで一つの完成形を見たように感じていましたので。いや、もちろん未だにビーチボールが回る頻度は少なくないですし、アプリが容赦なくフリーズすることもあるのですが、それでも機能的な改変の余地はそれほど残されていないように思えます。

ならば進化の方向性は「iOSとの再融合」でしょうかね。事実、今年のWWDCに参加した人に聞くと、Mac OS Xの話題、セッションは皆無に等しかったとのこと。これ以上、Mac的な、あるいはパソコン的な進化はなく、むしろ元々サブセットだったiOSベースのMac版ともいうべきOSで、進化をリスタートさせるような。そうしてiPhone/iPadアプリがMacで走るようになると、パソコンの世界にも革命的なことが起こりますよね。パソコン用のアプリがiTunesで買えるようになり、しかも違法コピーも基本的にはあり得ませんし。また、Adobeのような有力ベンダに肥大化したアプリを新たな推奨APIのみで書き直させれば、何かとすっきりするように思うのですが。

MicrosoftがAdobeを買収?

まだ単なる噂、勝手な憶測の段階みたいですが、MicrosoftとAdobeの間で何らかの話し合いが持もたれたのは事実のようで。大した結論も出ないまま話が流れる可能性が一番高いのではないかと思いますが、買収ほど劇的な結論はなくとも、包括的な業務提携みたいな声明の発表にこぎ着けるぐらいのことはあるかもしれません。

実際、MicrosoftとAdobeには似た点もうかがえます。例えば、共にソフトウエア製品が肥大化しすぎて身動きが取れず、数年置きに小粒な機能追加とGUIを変更しただけのものを新バージョンといって売り出しているところなど…。

WindowsとCreative Suite、共に市場ではまだ堅調に支持されていますが、いつしか空気だか水だかのような「あって当たり前の存在」に祭り上げられ、両社のプレゼンスは低下するばかりの様にも見えます。その一方で、Appleは「もはやパソコン全盛の時代は終わり、スマートフォン、タブレット機の時代が来るんだ」というメッセージで人々を洗脳することに成功しつつあるようにも思えます。

そして厄介なことに、かつてのWindowsのポジションをGoogleのAndroidが占めるようになりました。この先パソコンよりも有望なカテゴリでトップ2の枠に入り損ねたMicrosoftが起死回生策を探しているのは間違いありません。

でもなぁ、Adobe CSの各製品群、Flash文化、PDF。どれを取り込んでみたところで、携帯デバイス向けの市場でGoogleを追い落とせるかは疑問です。FlashとSilverlightの一本化などということに意味があるものか。両者ともHTML5への注力は表明しているのですし。

ああ、両者が組めばMac版のOfficeとAdobe CSの販売を差し止めるという戦略的な方策は取れなくもないですが、時すでに遅し。Appleは軸足をiOS側に移していますし、ユーザから見てOfficeにしろAdobe CSにしろ現行バージョンのままでも、おそらく支障は出ないのですよね。

Micorosftは純粋にOSの出来栄えを地道にアピールしていくしかないように思います。Adobeは昨今のその雑な製品展開を改めないことには、やはり既存ユーザから見放され兼ねない(多くが申し合わせたかのようにアップグレードを控える)のではないかと。

動画に見るAppleとSONYの差

先日、ダイビング仲間の一人が月末からラパスに行くということで、長旅対策としてPSPに動画類を入れてくれるよう頼まれました。PSPのバッテリがどれだけ持つのかは別として、動画のリッピングは私も普段iPhone向けによくやっているので「連休中に終わらせるから」と気軽に承諾。PSP本体と地デジなどの録画DVDを預かりました。

まずはDVDの録画データをMacに落とすためにCPRM対応のDVDプレイヤーからHDDレコーダにダビング。実時間を費やしてのデジタル→アナログ→デジタルのデータ変換はナンセンスですが、他に方法を知らないのでしかたがありません。

次にHDDレコーダからDVD+RWにダビング。さらにDVD+RWをMacに挿入してHandbrakeで.M4Vファイルに変換。ちなみにこの作業、昨年iMacをCore 2 duo搭載機→Core i5機に買い替えた際、64bit化も手伝って所要時間が約1/5~1/10と劇的に短縮されました。快適、快適。

さて、ここからが苦労したところ。PSPの仕様を調べてみると解像度が480×272でMP4の視聴が可能だそうで。なんでも、メモリースティック下の「MP_ROOT/100MNV01」というフォルダに「M4V0****.MP4」といった命名規則に則ってファイルを格納せよとのこと。しかもサムネイル用の「M4V0****.THM」なるファイルも要るような要らないような。取り合えずaltShiivaというユーティリティを探してきて変換を掛けてみます。でき上がったファイル2個をメモリースティックの所定のフォルダに格納し、PSPに挿してみるものの「破損データ」との表示が。「.mp4」という小文字の拡張子が悪かったのかと「.MP4」に直して試みるも状況変わらず。

Mac環境での作業と相性が悪いのかと思い、滅多に使わない低速のPC(Celeron、Windows XP)に久々に電源を入れ、携帯動画変換君で変換。処理の進み具合の遅さに閉口しつつ、ああWindowsを買っておけば、iMacのCore i5環境でキビキビ動いたんだよなぁ。でもDSP版でも売価がSnowLeopardの5倍だし…」などと思いながら処理が終わるのを待ちました。変換が無事完了し、メモリースティックに移してPSPで見ると、やはり「破損データ」。何が違うのか、どこを直せば良いのか皆目見当がつきません。

改めてネットを検索してみると「VIDEOフォルダに入れるだけ」なる記述を発見。なんのことはない、新しいファームウェアをPSPに適用すれば、100MNV01だのM4V0****.MP4だのといったファイル管理のルールが緩和され、再生可能な形式も増えるのだそうで。なるほど、こちらの方法は楽です。Macでお馴染みの.movファイルや480×272を超えるものは無理でしたが、.m4vなどPSPに適用する動画ファイルであればファイル名に配慮する必要もなく普通に再生できるようになりますね。

でもまあ、この最新ファームウェアが提供されるまで、動画を見たいユーザはデリケートなファイル管理を強いられていたってことですよね。なんだかなぁ。調べてみるとPSPが発売されたのは2004年。既にiPod & iTunesが隆盛を誇っていた時です。音楽でも動画でもとにかくiTunesに放り込んで同期させるだけというiPodの快適さは認識していたはずなのに…。

もちろんiPodとは違ってPSPは単体でも使えるように設計されたデバイスなわけですが、もともとメディアプレイヤーの用途も想定されていたのですし、ユーザがどうやって音楽や動画を用意するかを考えれば自ずと答えは出たはずです。実際、出来の善し悪しはともかく近年のWalkmanにはSonicGateなりx-アプリが付属していたのですし。結局SONYも事業縦割りで、かつソフトウエアの真価、重要性、緊急性、重点投入箇所を理解できていなかったのでしょうかね。

何と言うか、「この後もSONYはAppleの後塵を拝しつづけるんだろうなあ…」と思う一件でした。