Metroに思いを馳せる

Microsoft Surface先週、Microsoft Surfaceが発表されました。私のお仕事はソフトウェア製品のUI設計なので無視できません。というか遠からず本格的に取り組む必要性が出てきそう。そこでSurfaceやMetro UIにまつわる現時点での雑感でも。

私はSurfaceが成功するかどうかはOfficeの出来栄え次第だと見ています。この先iPadを差し置いてSurfaceを買うユーザーはOfficeが使えることを期待するのでしょうから。

でも、先行投入されるARM搭載の下位モデルでは既存の膨大な数のWinアプリは動かないはず。仮にエミュレーションで動かせたとしてもUIとの相性が悪ければペケ。斬新なUIを開発できたおかげで、アプリを起動したらいかにも旧来のWindowsアプリのままというのでは興ざめします。それに、ある程度まではタッチパネル操作が前提じゃないと。

ならばエミュレータを用意するのではなく、Microsoftは自社製およびサードーパーティ製アプリに審査を課すのが上策でしょう。Metro時代にふさわしい水準に達していないソフトウエアは排除するという。実はiPhonやiPadがこれほど成功した理由の一つがこれ。不適切なアプリの流出をブロックすることでユーザ体験が損なわれることを防止していて、その効果は絶大です。

よってMicrosoft自身もMetro時代にふさわしい振る舞いのOfficeをリリースする必要に迫られています。ファイルの互換性は保ちつつ、タッチ操作で使えるほど洗練されたOffice。難題ですね。iPad用のPagesにしてもお世辞にも使いやすいとはいえないし。

ああ、この先は私も忙しくなるかな。正直、旧来のWindowsは「できの悪い、Macのまがい物」的で、アプリもMac版のお下がり風で良かったのですが、この先は「Macと似て非なるiOS版」と「MacともiOSとも違う流儀のMetro版」の両方を操れる(人々がスムーズに使えるようにお膳立てできる)ようにならないと。

日米で視覚障がい者の意識はこうも違うのか

会社の業務のつながりでサイトワールド2010というイベントを見学しました。いわゆる視覚障害者向けの支援活動報告や商品紹介のためのイベントです。

中でも興味深かったのが石川准さん(静岡県立大学教授)によるセミナーの一節。日米で目が見えない人達に「今、何が欲しいか?」と訊ね、一番多かった答えがこれだそうです。

  • 日本:地デジが聴けるラジオ
  • 米国:目が見えない人が運転する車

いやぁ、いろいろ考えさせられますね。目が見えない人が車を運転するなんて発想が日本人には浮かばないような気がしますし。

まあ、さすがに「目が見えない人が運転する車」は無理そうですが、映画「iRobot」に出てくるような自動運転機能付きの車ならいずれは実現するかも知れません。そしてヒューマンインタフェースの出来栄え次第では、目が見えない人にも使いこなせるでしょう。

それに、これって結構なヒントですよね。日本では高齢者もどんどん増えていくのですし。どこか平坦な過疎地を「スマートシティ特区」みたいなものに任命して、ロボットカー交通(自動運転の車だけに限る)およびコンパクトシティ(行政機関や医療施設を中心に置いて、人工的でも合理的な街造りをする)の実証実験をやってみるべきだろうと思うのですが、どうでしょうかね。

動画に見るAppleとSONYの差

先日、ダイビング仲間の一人が月末からラパスに行くということで、長旅対策としてPSPに動画類を入れてくれるよう頼まれました。PSPのバッテリがどれだけ持つのかは別として、動画のリッピングは私も普段iPhone向けによくやっているので「連休中に終わらせるから」と気軽に承諾。PSP本体と地デジなどの録画DVDを預かりました。

まずはDVDの録画データをMacに落とすためにCPRM対応のDVDプレイヤーからHDDレコーダにダビング。実時間を費やしてのデジタル→アナログ→デジタルのデータ変換はナンセンスですが、他に方法を知らないのでしかたがありません。

次にHDDレコーダからDVD+RWにダビング。さらにDVD+RWをMacに挿入してHandbrakeで.M4Vファイルに変換。ちなみにこの作業、昨年iMacをCore 2 duo搭載機→Core i5機に買い替えた際、64bit化も手伝って所要時間が約1/5~1/10と劇的に短縮されました。快適、快適。

さて、ここからが苦労したところ。PSPの仕様を調べてみると解像度が480×272でMP4の視聴が可能だそうで。なんでも、メモリースティック下の「MP_ROOT/100MNV01」というフォルダに「M4V0****.MP4」といった命名規則に則ってファイルを格納せよとのこと。しかもサムネイル用の「M4V0****.THM」なるファイルも要るような要らないような。取り合えずaltShiivaというユーティリティを探してきて変換を掛けてみます。でき上がったファイル2個をメモリースティックの所定のフォルダに格納し、PSPに挿してみるものの「破損データ」との表示が。「.mp4」という小文字の拡張子が悪かったのかと「.MP4」に直して試みるも状況変わらず。

Mac環境での作業と相性が悪いのかと思い、滅多に使わない低速のPC(Celeron、Windows XP)に久々に電源を入れ、携帯動画変換君で変換。処理の進み具合の遅さに閉口しつつ、ああWindowsを買っておけば、iMacのCore i5環境でキビキビ動いたんだよなぁ。でもDSP版でも売価がSnowLeopardの5倍だし…」などと思いながら処理が終わるのを待ちました。変換が無事完了し、メモリースティックに移してPSPで見ると、やはり「破損データ」。何が違うのか、どこを直せば良いのか皆目見当がつきません。

改めてネットを検索してみると「VIDEOフォルダに入れるだけ」なる記述を発見。なんのことはない、新しいファームウェアをPSPに適用すれば、100MNV01だのM4V0****.MP4だのといったファイル管理のルールが緩和され、再生可能な形式も増えるのだそうで。なるほど、こちらの方法は楽です。Macでお馴染みの.movファイルや480×272を超えるものは無理でしたが、.m4vなどPSPに適用する動画ファイルであればファイル名に配慮する必要もなく普通に再生できるようになりますね。

でもまあ、この最新ファームウェアが提供されるまで、動画を見たいユーザはデリケートなファイル管理を強いられていたってことですよね。なんだかなぁ。調べてみるとPSPが発売されたのは2004年。既にiPod & iTunesが隆盛を誇っていた時です。音楽でも動画でもとにかくiTunesに放り込んで同期させるだけというiPodの快適さは認識していたはずなのに…。

もちろんiPodとは違ってPSPは単体でも使えるように設計されたデバイスなわけですが、もともとメディアプレイヤーの用途も想定されていたのですし、ユーザがどうやって音楽や動画を用意するかを考えれば自ずと答えは出たはずです。実際、出来の善し悪しはともかく近年のWalkmanにはSonicGateなりx-アプリが付属していたのですし。結局SONYも事業縦割りで、かつソフトウエアの真価、重要性、緊急性、重点投入箇所を理解できていなかったのでしょうかね。

何と言うか、「この後もSONYはAppleの後塵を拝しつづけるんだろうなあ…」と思う一件でした。

ケータイのトリセツが薄くなっているのだそうな

asahi.comで『携帯電話の説明書、スリム化 「使えばわかる」主流』にという記事を見つけました。私は以前、いわゆるトリセツの制作を専門的に請け負う会社に勤務していましたので、ちょっと気になります。

と言うのも、私が見聞きした限りでは、たいていのトリセツはメーカーと守秘義務契約を結んだ制作会社で制作されており、制作費の請求額は基本的に「ページ単価(ランク分けあり)×ページ数」で算出されていたからです。これにライティングの有無(原稿支給かライターに書き起こさせるか)や、どれほどのクオリティの写真やイラストを作成するか、といったオプション要素が加わることになりますが、おおむね売り上げはページ数に比例することになります。

この記事によると、最近のdocomoケータイのトリセツは以前の500ページ規模から120ページ程度に圧縮されたとのこと。実際、トリセツは「製品構成の中で最も高価な部品」だったりするため、メーカーとしては是非ともそのコストを削減したいところなのでしょう。だとすれば、トリセツ制作会社の関連部門の売り上げも以前の1/4に減っているやも知れません。

余談ですが、一昨年iPhone争奪戦でdocomoが敗れた理由として「docomoが各ケータイメーカーに500ページ規模の紙トリセツの添付を義務づけていて、これをAppleが嫌ったからだ」という噂がありました。真偽の程は解りませんが…。

ケータイで言うならば、市場が飽和して久しく、新機種投入のサイクルもますます長くなっていくでしょうから、制作会社はこの先ダブルパンチで収益性が厳しくなりそうです。かつて苦楽をともにした元同僚が苦境に立たされることがなければいいのですが、国内の製造業は向こう数年の内にも産業規模が半減するのは避けられなそうなので、もはや難しいかも知れません。

もっともトリセツの厚みが減っている理由はコストの圧縮だけでなく、記事にもあるように、むしろ「使えばわかる」「トリセツを必要としない製品作り」がメーカーに求められている結果とのこと。近年、紙っぺらのトリセツしか添付されないiPod、iPhone、iPadなどのApple製品が次々にヒットし、多くの人が「これでいいんじゃやないか!」と悟ってしまったわけです。パソコンのMacですらそれで成り立っているのですから、いまだに分厚いトリセツを添付している製品は野暮ったく見え、メーカーはその方面の力が不足していると受け取られ兼ねません。もちろん製品が使いにくいままトリセツを減らすのは論外ですが。

まあ、メーカー各社がトリセツいらずの製品作りに注力するのはとても良いことです。いつまでもAppleに周回遅れでは拙いでしょう。各社横並びでひたすら高機能を追求し、帳尻を合わせるようにトリセツで使い方に言及しておくというガラパゴス指向から抜け出さないと、それこそ命取りになり兼ねません。

そのAppleにしても紙のマニュアルへの取り組みはそんな感じですが、代わりに動画をきっちり用意していたりします。これが最良解だとすると、この先メーカーにしろトリセツ制作会社のスタッフにしろ、要求されるスキルは変わってきますね。今までのように誤字脱字、語句統一などに神経をとがらせるエディットリアルよりも、動画と音声で簡潔に伝える感性やスキルが重視されるのではないでしょうか。 実際、紙の上で図と文章で説明するのはかなり回りくどい方法だったりしますし、オンライン動画であれば製品リリース後も継続的にメンテナンスしていくことも可能です。

メーカーにとって、もはやパソコンとセットで使う製品、液晶パネルやテレビ出力を持った機器類では、分厚い紙のマニュアルを付けた時点で負け、失格と捕らえた方がいいです。ワークフロー的にも、先ず製造部門が主導で製品を作り、製品リリースの直前になってトリセツ部門が突貫敵にトリセツを整えるといった開発手法は許されなくなるかもしれません。