定年者の再雇用は老害の元凶

今夏、私のダイビング仲間の一人が定年を迎えます。10代の若者も70代の年配者も一緒に楽しめるところがスキューバダイビングの良いところです。

で、もうすぐ60歳のその知人は大手電機メーカー勤務なのですが、雇用形態を変えて会社に残れるとのことで仲間としては喜ばしく思っています。今どきの60歳は老人と呼ぶのも相応しくないほど元気ですし、突然張り合いをなくして老け込まれても悲しいので。会社側も方針に精通した経験豊富な人物を安価な賃金で雇えるのは好都合でしょう。高齢化社会を見据えての一種の社会貢献という意思表示もできます。

ただ、社会的にはどうでしょうかね。彼のような人が会社に残ることで若い人の雇用枠が一つ減ったとも考えられるので。せいぜいあと数年という人を雇い続けることで、向こう数十年間は産業界の一角を担う人に正社員の身分と経験を積む機会を与え損なうのは長い目で見れば損失でしょう。

もちろん個々の会社、個人によって事情は違いますし、起業家本人や自営業者、作家、芸能人といった個人の素養でもって活躍している人は別として、老舗の大企業のような既存の枠組みが出来上がっている組織の中で高齢者が居残るのは好ましくないと私は考えます。いわゆる「老害」だと。

その最たる例が政治の世界。例えば「年寄り議員が使いこなせないから」という理由でいまだにWebでの選挙活動が禁止されていますよね。でも、自身がITに疎いならちゃんとしたスタッフを雇えば良いだけです。実際、多くの議員が公式Webサイトを開いているわけですし。振り返れば「失われた20年」ですか。バブル崩壊後、日本が停滞かむしろ活力を無くし、じわじわと衰退の道を辿っているのもうなずけようというものです。世代交代という新陳代謝がどれほどもなされていないのですから。

産業界に話を戻すなら、もはや国内の製造業は余命いくばくもないと言われています。高品質な部品製造・輸出の類いは生き残るにしても、新興国勢との価格競争を免れない電気やら自動車やらのメーカーが数年後も今の姿を留めているとは考えにくいところです。とある総合メーカーの事業で言えば、原発関連は縮小を余儀なくされますし、その他に関しても夏冬の電力不足が追い討ちをかけます。ならば国内で今の規模の雇用を続けるのは不可能と考えるべきでしょう。

もっともそういった企業が後継者不足で廃業を覚悟した第一次産業よろしく向こう数年後には事業をたたむ覚悟ならいいのですが、この先も末永く存続し、かつOBへの年金も健全に払いたいということなら、保守的になりがちな逃げ切り世代の経営陣は速やかに後進に席を譲った方がいいです。

そして政界に目を向けるなら国家公務員の定年を通算25年ぐらいに制限する法律を作るべきですね。「高齢でも有能な政治家はいる」ではなく「新陳代謝のサイクルが緩やかなこと自体が問題なのだ」と。

元の話で言うと、定年退職者が同じ組織に勤め続けることは宜しくないので「所定の年月を務め上げて一定の役目を終えた人は、ぜひとも活躍の場を他所に求めるのが当然」という風潮ができて欲しいものです。じゃないと、この国は本当に萎んでしまいかねないだろうと。私情を横に置けば、メーカーは定年を迎える彼を再雇用せず、代わりにインターンででも若者を一人二人受け入れるべきだと思いますがね。